深堀クルーズ&アラスカ乗船
1.はじめに
2.団体旅行と個人旅行について
3.予約のタイミングについて
4.キャビン(客室)の選択について
5.航空券・送迎・前泊ホテルの予約について
6.乗船手続きと乗船初日について
7.船内新聞のポイントとイベントについて
8.日本人コーディネーター業務について
1.はじめに
この様なタイトルでクルーズ旅行を紹介させて頂くに当り、クルーズの特徴・クルーズの基礎知識・良くある5大質問・お勧めクルーズ・クルーズの選び方など、クルーズ初心者向けの情報は、多くの旅行会社やクルーズ専門店のホームページで紹介されていますので、今回はクルーズのリピーターや個人旅行(FIT)向けに、クルーズのノウハウや裏事情などを深く掘り下げてご紹介したいと思います。
ご紹介する理由は、私が旅行業界で半世紀ほど従事してきた、外販法人営業・海外ホールセール・総代理店業務(デルタ航空/HAL/Costa)では、公私にわたり諸外国への海外旅行を約300回以上経験してきましたが、特にクルーズ業務では旅行会社への営業やコーディネーター乗船及びプライベートな乗船を通して、クルーズは旅行の究極と感じたことから、もっと多くの方にクルーズの楽しさを知って頂きたいとの思いと、リピーターの皆様の口コミやアドバイスで、クルーズファンが少しでも増加して貰えれば、との思いから各テーマでご案内する次第です。
2.団体旅行と個人旅行について
数々あるクルーズ航路からどのコースを選択するのかは、日程・期間・予算・カテゴリーで希望クルーズが異なります。一般的に海外クルーズでは言葉の不安や手配の問題で、添乗員同行の包括旅行(航空券・送迎代・ホテル代・クルーズ代が含まれる)を選択しますが、最近はクルーズを自由にのんびりと過ごしたい方、海外旅行で飛行機では行けない観光地に行きたい方、一度でたくさんの都市に寄港できるクルーズを希望する方など、FIT(個人旅行)で予約される方は徐々に増加傾向にあります。そこで、団体旅行と個人旅行のメリット・デメリットやどのタイミングで予約したら良いのかをご案内したいと思います。
・団体旅行のメリットは・・・
① 全てが包括で予約が一度で完結するので手間が掛からない
② 航空機遅延などのトラブルにも対応して貰える
③ 添乗員同行でスケジュール案内があり、メニューや船内新聞など言葉の心配がない
④ 寄港地観光は日本語や専用車で案内するのでとても安心
*団体旅行はクルーズの初心者向けには最適な条件を兼ね揃えていますので、クルーズ乗船の経験度やコースに含まれるものなどの商品内容で判断される事をお勧めします。
・団体旅行のデメリットは・・・
① 商品造成及び発売開始が半年前で日程が限定される
② 包括旅行のため諸経費も含まれており旅行代金が高い
③ 最少催行人員に満たない場合はキャンセルとなる
④ 各寄港地では観光が含まれており自由行動ができない
⑤ クルーズ代金が値下げされても旅行代金は下がらない
*最少催行人員は添乗員同行のため、設定人数以上の集客ができないと採算割れとなり、催行率は10本設定して2~3本と言った状況で、4~6名集客できた設定日に集約するため、希望日に出発することはなかなかで、募集人数は主催会社にとって頭の痛い問題です。
また、旅行代金が高めなのは、到着空港から港又はホテルまでの往復送迎や、日本語専用車での寄港地観光がセットされており、添乗員費用やパンフレット制作費なども、諸経費として含まれるからですが、安心やサービスを購入すると考えれば納得できると思います。
・個人旅行のメリットは・・・
① 1年前から希望の日程や航路で予約できる
② 旅行代金は団体旅行よりも3~5割位安くになることもある
③ 最少催行人数に関係なくクルーズに乗船できる
④ 寄港地により自由散策や寄港地観光を選択して参加できる
⑤ クルーズ代金が下がった場合に再予約ができ、キャビンをアップしても安くなることもある(外国船クルーズは変動相場制のため、予約状況により料金を下げたり上げたりする)
⑥ 値上りしても予約・支払い済であればクルーズ代金は変らない
*個人旅行のメリットは旅行代金と自由度ですが、クルーズ旅行を数回経験してからでないと、いろいろな状況に遭遇しても対応が難しいと思います。次のデメリットを参考にご判断下さい。
・個人旅行のデメリットは・・・
① 航空機・送迎・前泊ホテル・クルーズなど、全ての予約が個人手配で個人精算となる
② 航空機遅延やオバーブッキングなどのトラブルは自己責任
③ メニューや船内新聞など言葉の心配がある
④ 寄港地観光は全て英語案内で外国人と混載となる
*昨今、①についてはネット予約に抵抗が無く、WEBを駆使して全てを予約する方もいると思いますが、航空会社の予約条件や利便性・送迎予約の不安・ホテルのローケーションなどを詳細に調べるのはかなり大変です。しかし、旅行会社はそれらの業務知識を備えたプロなので、予約完結までに有する膨大な時間を無くし、旅行会社に相談・依頼してわずかな手配手数料を払えば、旅行日程表や乗船案内書なども準備してくれるので安心して出発できます。
*③④については、日本人コーディネーター乗船のクルーズであれば、日本語メニューや日本語船内新聞が提供され、船内説明会などで寄港地観光の情報なども事前に入手できるので安心して参加できます。日本人コーディネーターの業務については最後の章でご説明いたします。
3.予約のタイミングについて
外国船クルーズは変動相場制とご案内しましたが、一般的に外国では一年以上前より予約を開始しており、最初は標準代金で予約を行います。しかし、早期予約を促すためクルーズ船社はいろいろな特典を付与してくれます。例えば、①オンボードクレジット(船内で使えるお小遣い)、②ドリンクパッケージ、③早期予約割引、④有料レストラン無料サービス、⑤寄港地観光サービスなどで、船社はこれらを幾つか組み合わせて早期予約を促します。
この様な特典でキャビンが売れていけば良いのですが、季節や方面によっては全体の予約状況が想定以下であったり、スイート・海側・内側キャビンが売れても、バルコニーの予約が良くない場合は、出航の半年前より数百ドルも値下げすることもあります。この場合には最初(標準代金)の内側キャビンのクルーズ代金より安くなることもありますので、個人予約を行った際にはタイミングを見ながら値下げを確認し、最初の予約をキャンセルして値下げされたキャビンを再予約すれば、海側バルコニーが内側より安くなることもあります。
しかし、先のご案内の通り、料金値下げに対応できるのは個人旅行であり、団体旅行では値下げされても設定のタイミングにより値下げされることはありませんので、クルーズ旅行を検討される際には団体旅行と個人旅行のメリットとデメリットを踏まえ、予算・時期・安心・言葉・自由度・旅行経験などで優先順位を考慮して、どちらを選んだら良いかを旅行会社に相談されて決めるのが良いと思います。
4.キャビン(客室)の選択について
邦船(日本船)と異なり外国船のキャビンでは、内側・海側・海側バルコニーにはバスタブが無くシャワーのみとなります。外国人とは生活様式が異なることからシャワーとなりますので、バスタブを希望される方はスイートキャビンをご利用下さい。一般的にスイートキャビンは寝室とリビングが別々となり、バスタブ付きで船体のやや中央に位置していることが多く、スイート専用のラウンジが利用でき、有料レストランの無料サービス、寄港地や港での優先の乗下船、キャプテン主催パーティの招待など、いろいろな特典が付与されており、料金の付加価値は高いと思います。
それ以外のキャビンは予算・揺れ・アクセス・眺望などを考慮してキャビンを選択しますが、いずれのキャビンも共通して言えるのは、夜のエンターテインメント施設(シアター・バー・ラウンジ)や、ダイニングレストランの上下階のキャビンは、天井や床から音が漏れてくる事もあるので、それ以外のデッキのキャビンを選択して予約する事をお勧めします。また、内側(窓なし)・海側(窓付き)・海側バルコニー(又はベランダ)の基本的な設備は同じですが、キャビンの広さ・船体位置・デッキ階層では船社やシップ(クルーズ船)により異なりますので、旅行会社やクルーズ船社のホームページで確認されるのが良いと思います。
なお、海側をご希望で少しでも予算を抑えたい方は、海側視界不良(オブストラクション)と言って、窓がテンダーボートで視界が遮られているキャビンがお勧めです。窓の視界(景色)は約10~20%となりますが確実に日の出や日没が分かり、日差しが差し込むので内側のように日中は照明を付ける必要はありません。よって窓の視界が遮られている分、料金は海側キャビンより値打ちで設定されています。
また、揺れを心配される方・各施設へのアクセスを重視する方・車椅子をご利用の方は、船体中央やエレベーターの近いキャビンをご利用ください。船体中央は前方のシアター・後方のメインダイニング・中央のブッフェレストランなどへのアクセスは一番良いのでご希望は多いと思います。
更に、船体の右舷と左舷については、左舷(ポートサイド)と右舷(スターポートサイド)のどちらが良いのかとのご質問も多いのですが、航海中は陸の近くを走っていないのと、航路により反対側が陸地になることもあるので、どちらかといえば、入港時や出港時に港が見えるかどうかだと思いますが、接岸は必ずしも港の状況により左舷のみではないので、あまり重要視する必要はないと思います。むしろ、奇数・偶数で覚えやすい番号を選択し、ドアに自分用の飾りを付けて分かり易くして置けば、船内で迷うことなく自分のキャビンに行くことができ安心です。
5.航空券・送迎・前泊ホテルの予約について
外国船の海外クルーズに乗船するには、航空機で現地に行き交通機関を利用して乗船港に行かなければなりません。例えば、アラスカクルーズでは中部空港から成田(羽田)経由でシアトル又はバンクーバーに向かい、到着後に入国手続きを行うのですが、シアトル(米国)やバンクーバー(カナダ)に渡航するには、事前に電子渡航認証が必要です。この電子渡航認証は個人でも可能ですが、HP(ホームページ)が英語表記で質問項目も多く、英語表記を理解できないと申請そのものが認証できず、出発当日に飛行機に搭乗できないことになりかねません。
また、航空券についても同じ区間でありながら、安い料金や高い料金が設定されておりますが、変更やキャンセル時のルールが異なりますので、個人予約をする際はしっかり条件を確認して予約しないと、キャンセルに払い戻しがないなど後で後悔することも少なくありません。
次に、一般的には空港に到着すればそのまま乗船港に向かい、乗船手続きを行えば良いと思いがちですが、さて、搭乗便が予定時刻より数時間も遅延した場合は如何でしょう? 予定していたクルーズには乗船できず、どこか乗船可能な港まで行かなければなりません。
ヨーロッパ内のクルーズでは航空機で次の寄港地に向かうことは可能な場合もありますが、アラスカクルーズでは陸路で行けない寄港地もあり、クルーズをあきらめなければならない事も想定されます。よって、海外クルーズは常に航空機の遅延リスクを考慮して乗船港の都市に前泊し、翌日はゆとりをもって乗船港に向かえば確実に乗船でき安心です。
さて、次に空港~ホテル~乗船港及び下船港~空港までの送迎についてご案内します。一番安心なのは旅行会社の手配で、日本語ガイドがご案内する送迎です。リピーターで外国船に何回も乗船された方は、クルーズ船社の送迎サービスを利用すれば、料金はかなり抑えられます。しかし、日本語対応は無く英語ドライバーのみであることと、空港では自分でクルーズ船社のサインボードを持ったドライバーを探し、乗車してホテルに向かうこととなります。万一、見つけられなかった場合は、自分でタクシーに乗車してホテルに向かうので、多少の不安が残りますが、ホテルと送迎3回をセットで事前に予約すれば、日本語ガイド付き専用車+ホテルの料金よりも半額以下になります。多少の英語力と海外旅行の経験があれば対応可能と思います。
つまり、電子渡航認証・航空券・送迎・ホテルの予約については、旅行会社の担当者に相談すれば、より安心できる手配内容となりそれなりの料金になりますが、サービスが割愛された手配では安くなると言う、費用対効果と安心感が反比例する事となります。しかし、自分自身で全ての予約を行うのと、旅行会社が専門的に行うとでは明らかに安心度が異なるので、少しの手数料でリスクが回避でき安心して旅行できるよう、自分のこれまでの旅行経験度を考慮して、全ての予約と手配は信頼できる旅行会社に相談・依頼する事がベストと思います。
6.乗船手続きと乗船初日について
乗船当日はクルーズ会社の送迎バスで港に向かえば、バース(停泊場所)まで運んでくれますが、タクシーで移動の際は運転手に乗船港の住所か、クルーズ会社名やシップ名を伝えないとそこまで運んで貰えませんので、クルーズチケット(乗船券)を提示するなどで対応下さい。
さて、乗船手続きは航空機のチェックインと少し異なりますが難しいものではありません。先ず、クルーズターミナルに入ると、
① スーツケースを預けます。*必ずキャビン番号が記載された荷物タグを付けるのを忘れないでください。
② チェックインカウンターで、乗船券・パスポート・クレジットカードを提示します。
*クレジットカードは船内での支払いに使用するため、ご夫婦の場合は1枚を登録し、友人同士の場合は各自のカードを登録します。ご存じの方も多いと思いますが、船内でのほとんどの支払いがキャビンにチャージされ、下船時に利用明細を確認して間違いがなければそのまま下船できるので、ホテルでのチェックアウトの様に並んで待つことは無くなります。
*船内精算できるのは、アルコールなどの有料の飲み物・有料レストラン代金・寄港地観光代金・SPAの利用料金・有料イベント参加料・ショップでのショッピング代金・船内チップなどです。
③ 次にカメラで写真を撮ります。
④ 乗船券・パスポート・クレジットカードが返却され、クルーズカードを受け取ります。*クルーズカードは3つの用途(パスポート情報など身分証明・クレジットカード情報・キャビンの鍵など)のデータが記録されており、クルーズ期間中の船内ではクルーズカードで支払や乗下船ができますので、現金やパスポートは金庫に保管して安心して楽しめます。
さて、いよいよ乗船して最初に向かうのが、クルーズ中に滞在するキャビン(客室)です。キャビン内には船内新聞・船内マップ・寄港地観光案内・キャビン担当カードなどが置かれていますので、セイフティーボックス(金庫)・三二バー(冷蔵庫)・クローゼット・バスルーム・救命胴衣の保管場所をひととおり確認し、クルーズカードと船内マップを持って船内見学を開始しますが??
外国クルーズ船のチェックインは航空機と異なり、出航の5時間前より開始する事が多く、17時出港であれば12時よりスタートしますので、ホテルに前泊の場合はゆっくりと準備できます。何より嬉しいのは乗船後にブッフェレストランで、お客様を歓迎するランチが用意されており、楽しいクルーズライフがここからスタートします。バイキングススタイルなので好みの料理が堪能できます。予約時には旅行会社で乗船初日の昼食については確認されることをお勧めします。
よって、最初にデッキ上層階のリドレストラン(ブッフェレストラン)に向かい、ゆったりと乗船初日の昼食を堪能した後、船内マップを片手に各デッキの施設を見学して回りましょう。これはクルーズ乗船中にどこのデッキに何の施設があるのか、自分のキャビンから移動の際に方向が分かるので、乗船初日に行うことをお勧めします。しかし、全ての施設を覚えることはできませんので、メインダイニング・ブッフェレストラン・シアターのデッキ(階層)と前方・後方などを押さえて置けばその後は行動し易くなります。勿論、ご自分のキャビン位置(デッキと左舷・右舷)は一番重要なので、ドアにマグネット・風船・ドライフラワーなど、分かり易い目印を付けるのも一考です。
*日本人コーディネーターが乗船する場合は、船内説明会や船内見学会(シップツアー)を当日や翌日に行い、専用カウンターでご相談に対応するクルーズもありますので、最初に日本語船内新聞で確認される事をお勧めします。
7.船内新聞とイベントや特典について
船内新聞の内容はどのクルーズでも同じと思われがちですが、船社により掲載内容は異なります。一般的には、船長やクルーズディレクターの挨拶から始まり、毎日の天候・気温・入港と出港時間・寄港地の紹介・ドレスコード・レストランや各施設の営業時間・イベントプログラムと時間などが紹介されていますが、目を凝らして良く読んでみると、エンターテイメントの演目・音楽プログラムやダンスタイムの紹介・映画鑑賞や料理教室の案内・無料と有料のイベント案内・免税店やショップの割引販売・SPAのプロモーション割引など、船内でのすべての情報が確認できます。
変わったところでは、ディナー開始前の17時よりバーやラウンジで「ハッピーアワー」と言って、2杯目のドリンクをUS1ドルで販売するプロモーションなどがあります。また、ビールをまとめて3本購入すると4本目の無料サービスや、お勧めのワインが値打ちに購入できるなど、アルコール好きの方には嬉しいサーピスが紹介されています。
*説明会でアルコール類についての質問も多いので、この様なプロモーションやワインのボトルキープや、持ち込み可能容量についての案内も行っています。
船内新聞にはお知らせやイベントだけでなく、特典情報などが掲載されていますので、入手後にポイントを確認しておけば、翌日の行動の優先順位が決められるので非常に大切な情報です。
8.日本人コーディネーター業務について
最後にアラスカ7泊クルーズで行ってきた、日本人の乗船者向けのコーディネーターについて、業務内容やトラブルなどの出来事を紹介したいと思います。乗船していたのは、日本地区総代理店として販売を行っていたHAL「ホーランド・アメリカ・ライン」のMSウエステルダム(82,000t)で、プレミアム客船の中でも気品のある落ち着いたサービスを提供しており、上級プレミアム客船として旅行代理店へ営業を行っていました。HALはオランダ船籍で皇室とのかかわりがあり、18隻の船名はオランダ皇室が命名してきましたので、すべての船名に“ダム”が付けられています。
日本にはアラスカクルーズを終えた後、アジア周遊や日本周遊クルーズを行うために来航しますが、リピーターを大切にするコンセプトのため、乗船者の名前や趣向などを覚えてサービスできるよう、ロングクルーズを得意としております。クルーはフレンドリーなインドネシア人とフィリピン人が多く、HALで各部門の教育を受けて終了した者が、6~9ヶ月連続で各シップに乗船しています。アラスカ・カナダ・メキシコ・カリブ海などが7泊で一番短く、ほとんどは地中海14泊や南米や南極21泊などで、乗船者の国籍は米国・カナダ・欧州・アジアですが、航路により国籍の割合は異なります。
アラスカクルーズはどこの船社でも天候が良い5~9月に運航されますが、旅行会社主催の募集旅行はクルーズ代金と航空運賃が最も安い5月と9月に集約されます。7~8月は旅行代金が5月や9月と比較すると約20%高くなるためと、添乗員同行ツアーとして安心感もあります。そのため、コーディネーターは日本人が80~120人と多く乗船する出航日に乗船し、募集旅行のお客様や添乗員・個人旅行(FIT)のお客様向けに様々な業務を行っております。乗船初日には乗船挨拶の書面を作成しキャビンに配布します。夕刻にはメインダイニングのメニューを日本語に翻訳してコピーを準備します。その後は、翌日の朝食メニューやルームサービスの翻訳とコピー、船内説明会と船内見学の案内書を作成し、それぞれを添乗員やキャビンに配布します。
2日目は乗船説明会の会場準備と本番での説明や質疑応答、そして、シップツアーのルートを考えて1時間ほど船内をご案内します。また、毎日専用デスクを設置して寄港地の資料を準備し案内業務を行います。もちろん、メインダイニングのメニューや船内イベントは毎日変りますので、ディナーのメニューや有料レストランのメニューと、船内新聞の翻訳及びコピーは7泊分を行わなければなりません。基本は午前に専用デスクで案内業務を行い、夕刻まではキャビンにノートPCと小型プリンターを持ち込んで翻訳と原本印刷を済ませ、20時までに客室数分をコピーして各キャビンや添乗員に配布します。
しかし、クルーズは海上を航行しておりますので、天候悪化による航路変更や抜港などが発生する事があります。5~8月は天候が安定しているため、この様なケースは非常に少ないのですが、9月下旬は風雨が強くなると船体が揺れるので、突然、船長より航路変更や抜港のアナウンスがあります。こうなると、ショアエキスカーション(寄港地観光)デスクは、現地への手配変更やキャンセル対応でてんてこ舞いとなります。また、航路変更によりイベントディレクターもイベントの組み換えと打合せを行い、船内新聞のイベント内容が大きく変わります。そして、コーディネーターは航路変更後の案内書を作成し、新たな日本語船内新聞も編集したうえで、それぞれコピーして急いでキャビンに配布し、専用デスクのボードに新スケジュールを掲示します。
かつて、15名(添乗員同行)の団体ツアーで、成田発のデルタ航空が悪天候のため出発できず、出港当日のシアトルでは乗船できない事態がありました。一行は翌日発のデルタ航空によりシアトル経由で3日目の寄港地であるケチカンに向かいましたが、ここで運悪く天候不良のため航路変更が発生し、3日目の寄港地がジュノーに代わってしまいました。幸いにも、同僚が同じデルタ航空で帯同していたため私から同僚に航路変更を連絡し、一行はケチカンよりジュノーに再飛行する事ができました。ジュノーでは用意したタクシー4台に分乗して本船に到着し、乗船後は短くなったアラスカクルーズを楽しむことができました。
これは航空機の遅延とクルーズの航路変更が重なったケースでしたが、前述の通り、乗船港への当日到着はリスクがあり、結果的に前泊代以上の費用支出が発生し、お客様には航空機移動の負担や、日程を短縮しなければならない事態となってしまった事例です。やはり、旅行には何らかのトラブルがあることを考え、リスクを回避する策を講じて旅行日程を組んで頂きたいと思います。
他にも乗船中はいろいろなトラブルがあります。ホテルでよくあるバスタブのお湯が出ない、トイレがペーパーで詰まってしまった、エアコンが寒くて眠れなかった、インターネットにアクセスできない、覚えのない料金が課金されている、隣のキャビンがうるさくて眠れない、寄港地観光の英語が分からない等、それぞれフロントにメンテナンスの依頼や、Wi-Fiのアクセス説明と明細の確認などで、事なきを得ることが多いのですが、突然の病気だけは対応に苦慮します。
あるご夫婦の奥様より「飛行機での移動中に主人は足が痛くて歩けなくなった」と、乗船初日に相談を受け医務室へ案内して診察を受けましたが、病名は分からず痛み止め薬を処方され、車いすを借りて様子を見ることになりました。しかし、最終日まで状態は改善されずそのまま下船して帰国されました。帰国後、奥様より日本での診断結果が判明し連絡を頂きました。病名は「痛風」で乗船中もアルコールを飲んでいたため、痛みは治まらず日本で治療薬を処方されるまで大変苦労されたとのことです。
ここでご説明したいのは、船内医務室で治療を受けた際の治療費ですが、2回の診察と痛み止めの処方でUS$800(約8万円)をクルーズカードに課金されました。幸いにも海外旅行保険に加入されていたので、帰国後に日本の治療費と併せて保険金が支払われ、海外旅行保険のありがたさを痛感されたようです。時折、クレジットカードに付帯されているので海外旅行保険は不要とのお言葉も頂きますが、海外での治療は非常に高額で数百万から数千万円のケースもあります。クレジットカードの付帯条件では保障金額が補えない場合もありますので、事前に海外旅行保険に加入されて出発されるよう推奨します。もちろん、私も業務やプライベートでの海外旅行やクルーズに乗船する際には、安心できるので必ず加入しています。
さて、寄港地では入港後に時間が取れるため、お客様を散策にご案内する事もあります。その際には観光施設・所要時間・ショップ・レストラン・混み具合など、新しい情報を仕入れておきます。専用デスクでは参加した寄港地観光や食事について、散策した際のレストランや様子を楽しく話していただく事も大変多く、それぞれが違う目的でもクルーズを堪能されている事が伺われます。乗船中は何よりもお客様からこの様なご意見や、下船時にお礼の言葉を頂くのが何よりの励みで、7泊8日のコーディネーター業務の充実感と、クルーズ販売の活力源となっていました。現在はコーディネーター業務を卒業しておりますが、これまでの経験を活かしながら引き続き、クルーズ業界発展のための啓蒙を行っていきたいと思います。「深堀クルーズ」が乗船される皆様にとって、少しでも参考になればと祈念しております。最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
株式会社ツーリストアイチ
クルーズデスク 高木良保